もう20数年も前のことである。地方都市の小さな模型屋に、僕らはいつも集っていた。
なんにもなくまだ何にもなれていなかった僕らは、模型と3冊の模型雑誌があれば幸せだった。
その中のひとつに、とても面白いコラムがあった。雑誌が来たら飛びついて、まずはそのページを読んだ。
『こんな○○欲しいッス』
まったくまったく。こんな○○欲しいッすね!
時には腹を抱えて笑い、時にはくそ真面目な顔で仲間たちとああだこうだと議論する。そして必ずこう思うのだ
「ああ。今回もすっげぇ面白かった!」
コラムを描いてる人の名は【水玉螢之丞】
絵はポップでかわいくってどこかしら少女マンガの香りがするのに、名前は水玉螢之丞。
性別が分からん。何せ模型誌だしな。女の人が描いてるとも思えん。
ある時コラムに自画像が載った。それでも微妙に分からん。
「男かな? 女かな?」
わからん。なにせ模型誌だしな。
ある日とうとう判明した。水玉螢之丞は女性だった。絵は確かに女性だが、着眼点が女性っぽくないだろ。ホントに女性か? マジに女性らしい。
一同、微妙にパニックになってみたりしたけれど、衝撃が去ったあとに誰かが言った。
「すげーわ、水玉のおねーちゃん」
以来僕らの間では、水玉螢之丞は「水玉のおねーちゃん」「水玉のねーちゃん」と呼ばれるようになった。会ったこともない人なのに、僕らはまるで、彼女を仲間のように呼んだのだった。
そこには無上の敬愛が込められていた。
僕らは彼女のことを、敬愛を込めてこう呼んだ。
【水玉のおねーちゃん】
模型小僧の集う小さなホビーショップで、腹を抱えて笑いながら、真剣に議論しながら、水玉のおねーちゃんのコラムと共にあったことを、僕は決して忘れないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
模型人のひとりとして、ワンダーフェスティバルのマスコットキャラクター【ワンダちゃんとリセットちゃん】に、先生がキャラクター原案を手がけられた『まおゆう魔王勇者』の【魔王と勇者】のコスプレで。
…水玉螢之丞先生の訃報に接したとき「まさか!?」という言葉しか浮かびませんでした。
ワンダーフェスティバルのワンダちゃんとリセットちゃんを別の方が描かれたので、何があったのだろうとは思っていましたが。
90年代のあの頃、水玉のおねーちゃんのコラムを毎月のように楽しみにしていた自分たち。
あの店は今はなく、あの時のメンバーもほとんどが交流がありません。
あの模型屋を辞めたあの日、自分の模型人生は一度終わりましたが、今また老眼がどーのこーのと文句を垂れながら、ぼちぼち作っています。
モノを作るということは素晴らしいことです。
水玉のおねーちゃん、お疲れ様でした。そして、ありがとうございます(深々礼。
- 作品名
- 僕らは彼女のことを、敬愛を込めてこう呼んでいた【追悼・水玉先生】
- 登録日時
- 2017/06/13(火) 22:12
- 分類
- その他・版権モノ