オリジナル格納庫

……。

……。

南無阿弥陀（なまんだ）ぶー。

まんまんちゃん～～……て、これでいいかねぇ？

いんじゃない？　お寺さんはこないだ来たし。
その時「霊（たま）抜き」はしたとかせんとか言っとったし。

んじゃ、今あたしらがしたのはなにさ？

何事も形式は必要よ？

……ま、そだね。
ほんじゃま、暴きますか。

物言いが悪い。お骨（こつ）を出すだけよ。

墓暴きには変わりない。

だーかーらー。お寺さんに来てもらったんでしょ。

普通さ、その日のうちにすると思うんだけどねぇ。

しゃーないべさ。
誰かが忙しいし、私だけじゃ手に負えないし、お寺さんもスケジュールがあるんだし。

はいはい。悪かったね。
さて…と、ここだよね？

そう。なんで横とか裏とかに入り口作らなかったんかね？

お隣みたいに？

うん。隣みたいのだと、楽そうじゃない・

まーねぇ。
ご先祖さまが作ったモノだから、作った人に訊いてみないと。
……て、狭いな、入り口。

狭いね。

アタシじゃ無理だわ。こりゃ。

はいはい。私が入ります。
……。

……どう？

うん。カビ臭い。
盛大に水漏れしてるみたい。

ありゃまー。
荒れたりしてない？　倒れてるとか。

それはない。大丈夫。整然と並んでる。……出すよ？

ほいきた、任せて。

順番どおりに並べてよ？
…一応整理されてるっぽい。途中からは。

へー？

油性のマジックみたいなので、年代とか名前とか、ある。

へんなところから律儀だねぇ。
……わー、こりゃ雨垂れ染みかね？

そうじゃない？　こら、気持ち悪がらない。ちゃんと持って。

やー、人の骨だと思うとちょっと……。

もう何十年も昔ものだもん。ただのモノだよ。

でも移すんだ？　手順踏んで。

先祖は敬わないとね。この人たちが居なかったら、私たちは存在しないかもしれないじゃない。

それはごもっとも。

……まさか墓地の区画整備にぶち当たるとはね。

長年放置してたから、まぁいいや的に決められちゃったのかもね。
まぁいいじゃん。もちっと高台のいい場所に当たって補助金も出たし。

そういう問題じゃなくてね。
……ここはウチの地所なんだし、一応。この場所に愛着がある人もいたんじゃないかなって。

この中の人たちが？

うん。そう。

もう魂なくなっちゃってんのに？

気持ちは残るものだからね。……て、これで、最後。

ほいほい。
……手、貸そうか？

ええ、お願い。……っしょ…と。
あー、娑婆の空気！

そんなに酷かったん？

あんたは入らなくて正解だったね。発作起きてたかも。カビで。

それは、ちょっと嫌だな。

でしょうね。

んー。こうして見ると、壮観だなー。

何人分？　……ひのふの……

ざっと30人くらい？

満員御礼も間近って感じだった。

中？

ええ。
ちゃんと渡した順に並べてくれた？

うん、もちろん。

よかった。年代順に並んでたっぽいから。
字が書いてあるのは、少々混じってもわかるけど。

ちょうど半分くらいか。

書き始めの何代かは、ひとりの人が書いてるっぽいわね。

うん。同じ字だね。
こうやって並べると、いろんな名前の人がいるなぁ。
友子（ﾄﾓｺ）、保則（ﾔｽﾉﾘ）、保貴（ﾔｽﾀｶ）、一美（ｶｽﾞﾐ）？……

カズヨシかもね。……友則（ﾄﾓﾉﾘ）、秋子（ｱｷｺ）、友秋（ﾄﾓｱｷ）、春花（ﾊﾙ…ｶ）？

ハルハナじゃなさそうだね（笑う）……こっちは貴秋（ﾀｶｱｷ）と春貴（ﾊﾙｷ）…かな？
……ここの固まりはひと世代っぽい感じ？。

トモアキさんはトモノリさんとアキコさんの子供みたいだね、間違いなく。

ハルカさんとタカアキさんは夫婦とか？

それならば、トモアキさんの子供かね？　……いや、没年からして、トモアキさんと兄弟っぽいな。
……ん？

あに？

なんか。あれ？

おい。なにやってるんすか？

いや、トモノリさんのだけ、ちょっと重さが変。

変？

ちょっと不自然な重さというか……。

え！　……マジ、開ける！？

んー？

まてまてまて。平気なのかー。

別に、肉が生で付いてるわけじゃないもん。

やだねー、元医学生ってのは。

悪かったわね、リタイヤ組で。
……あ。

ぅえ？

もうひとつ、骨壺入ってる。ちっこいのが。

えー？

ちっこいシートも持ってきてたよね？

出しますか？

うん。気になる。

……。

……。

あんがいたくさん入ってるもんなんだね。

……これ。

なに？

トモノリさんのお骨じゃないわ。

はぁ？

『友則・妹　貴子（ﾀｶｺ）』って書いてある。

赤んぼの時に亡くなったとか？

いんや。享年51…だって。

トモノリさんやアキコさんに比べて、ずいぶん若くない？
…て、まだ開けるか！

……ああ、なるほど。

何がわかりましたか？

第二頸椎が半分ちょっとだけ入ってる。

ダイニ……？

このあたりの骨。
仏さまが座禅を組んでいるように見えるから、『喉仏サマ』とかって言うらしいよ。

へー。…で、他の部分はないの？

ないね。紛失したか、これ以外はどこかに散骨したか。
それよりなんで欠けてるのかと、お兄さんのトコにわざわざ入れてあるのか、それが謎だわ。

トモノリさんまでの字と一緒の字だね。

言われてみれば。アキコさん以降字があからさまに違うね。

ねぇ、こっちの骨壺、なんかちょこっとはみ出してる。

どれ？

ハルカさん？

ほう……あ、ホントだ。

……そっちも開けますか？

腐るものが入ってると、大変だから。

生肉は入ってないんじゃないの？

紙とかさ、入ってるとそれが腐ったりするのよ。

ははーん。

……て、これは。

なになにー？　……おやまぁ。

厳・重。

厳重ですね。わざわざ油紙。

ありゃ。

何が見つかった。

さっきの片割れ。

はい？

タカコさんの第二頸椎……たぶん。

根拠は？

さっきの喉仏サマの欠けた部分だよ、この形は。

……さすが元・医学生。
しかし。そらまた何でだろ？

アンタはいつも一言多いな。
……てか、わたしにはわかりませんよ。

なにか因縁でもあるのかね？

さーぁ？　皆目検討もつかないわ。ご先祖様にもいろいろあったんでしょ。
……そろそろ引き上げますか。

そーだね。雨降りそう。

残りもとっっと積み込もう。

あんたが暴き始めたんでしょが。

まぁまぁ。
どうせ家に戻ったら全部再整理するし。

どうするの？　タカコさんの骨。

意味があるんだろうから、元に戻しておくわ。
トモノリさんとハルカさんにわざわざ分けて入れてあるんだもん。

そーだね、それがいいだろね。