甘酒
甘酒 本文
時間外の、どうでもいい話。
柳原グループ総本社・総裁室。夕方。
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柳原グループ総本社・総裁室。夕方。
……岩下さん。いえ、兄さん。
……なんでしょう、会長?
………。
その返事は、ハナから拒否の姿勢よね?
その返事は、ハナから拒否の姿勢よね?
会長が私を「兄さん」と呼ぶときは、ろくなコトじゃないですからね。
………。
否定できますか?
……できません。
……で? なんでしょうか?
とりあえずは聞いてくれるのね。
とりあえずは。
じゃ、遠慮なく。
(メモ紙とボールペンを出して頷く)
味噌漉しが、欲しい。
………(手が止まる)
味噌漉し? 今すぐ?
味噌漉し? 今すぐ?
できたら。
それと、砂糖と酒粕。あ、雪平のお鍋も。
……作れと?
自分で作るもアリ……かな。
いきなりだね。……というか、家の冷蔵庫に、母さんの作ったヤツがあったと思うけどな?
“なんちゃって”が飲みたいの。
ふむ。
……この時期になると、飲みたがるね。
……この時期になると、飲みたがるね。
……まぁね。
酒粕は、例の銘柄?
できたら。
あそこは代替わりして、味が変わったね。
そうね。でも、それでいい。
それで、いい。
うん。
少しでも似た味で?
そういう意味じゃないわ。
父さんに作ってもらったら?
アレは作りたてが美味しいと思ってるの。
“なんちゃって”だからね?
ええ。“なんちゃって”だもの。
……で? 用意してくれるの?
お急ぎならば。
飲めなかったら仕事しない……って顔に書いてありますから。
飲めなかったら仕事しない……って顔に書いてありますから。
………。
鍋と砂糖は給湯室にあるからなんとかなりますけど、酒粕は……
……だったら、なんでもいい。
アレは後日でもいい。でも……
アレは後日でもいい。でも……
今すぐ飲みたいわけですね。了解しました。
(インターフォンのスイッチをオンにする)秘書室。岩下だが、柳原君はいますか?
すぐに総裁室に来るようにと、伝えてください。
(インターフォンのスイッチをオンにする)秘書室。岩下だが、柳原君はいますか?
すぐに総裁室に来るようにと、伝えてください。
………。
こういうときに、ヤツは使うに限ります。
酷い上司。
私も、前総裁によくやられましたし(愉快そうに笑う)
……あちらも非道い上司よね。
なるほど、こうやってウチは血族経営を続けているわけだ。
なるほど、こうやってウチは血族経営を続けているわけだ。
(苦笑して)そういうわけではないと、思いますがね。
母さんに関しては。
母さんに関しては。
(ドアフォンが鳴る)
(紙にメモを取り)さて、ヤツは無事にお使いを完了できますかどうか?
……非道い上司ね。
その非道いことを最初に言い出した方は、どなたでしたっけ、総裁?(にっこりと笑う)
(肩をすくめる)