爪切り。
爪切り。 本文
どっちが一番甘いのかと小一時間…(略。
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貴ちゃん。手、出して?
んぁ?
爪、伸びてるでしょう?
………。
そんな睨まないでよ。
………。
春花が教えてくれたのよ。
………。
……確かにかなり伸びてるわね。
切る?
………。
切って、いい?
……どうぞ。
(ぷち、ぷち……)
………。
(ぷち、ぷち……)
………。
(ぷち、ぷち……)
………。
貴ちゃん。
……ん。
お願いがあるのだけど?
いいかしら?
……内容による。
春花がね……
却下。
……もうっ。
真面目に最後まで聞いてちょうだい。
真面目に最後まで聞いてちょうだい。
……あんたは春花に甘すぎる。
懐かないからって、なんでもホイホイ望みをかなえるのは、春花のために良くない。
懐かないからって、なんでもホイホイ望みをかなえるのは、春花のために良くない。
そういう意味じゃなくて。
そうかもしんないけど、アタシにはそう見える。
それが、良くない。
それが、良くない。
………(ため息)
あなたの方が、よほど春花の母親よね。
あなたの方が、よほど春花の母親よね。
……母親はあくまでもあんたでしょ。
アタシはただの血のつながっていない叔母なだけ。
アタシはただの血のつながっていない叔母なだけ。
そうね。結局、一番あの子に甘いのは、あなただもの。
否定はしない。
否定はしない。
肯定はしたくないけど。
……で、本題なのだけど。
……で、本題なのだけど。
断ったはずだけど?
そう。わかったわ。……じゃ、終わり。
………。
……ねぇ。
……ねぇ。
(爪切りを片付けながら)なぁに?
これ。
終わりって言ったでしょ?
えーと。
薬指1本くらい、伸びてたってどうってコトないでしょ?
気持ち悪いんだけど。
あら、そう。
あら、そう。
じゃ、春花にでも切ってもらえば?
……! (やられた…という顔)
じゃぁね。おやすみ。(さっさと部屋を出て行く)
……(不機嫌に輪がかかって眉間に深い溝が…)
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(次の日の夕方)
貴ちゃーん。
……おかえり、ハル。
………。
なに? どした?
………。
………。
ばいばーい。
……(ガシガシと頭を掻いて)
こっちおいで。頼みたいことがあるんだけど?
(戸口から顔を半分だけ出して見ている)
怒ってないよ。もう機嫌も直った。
(そろりと入ってくる)
おいで、ここ。
………。
ゆんべさ、お母さんとちょっとケンカしちゃったけど、帰ってきたら仲直りする。
貴ちゃーん(トコトコと近づいてきて、貴子にぽふん、と抱きつく)
ホント?
ホント。
そもそもアタシが悪かったんだし。
んー(貴子の胸に顔をすりつける)
(春花の頭をごしごし撫でて)
ハル、アタシの頼み、聞いてくれる?
(顔を上げる)何?
これ(摘み残された左薬指の爪を見せる)。切って欲しいんだけど?
お母さんは?
怒って切ってくんなかった。
……で、やってくれますか?
(思案顔)
そこの引き出しの中に、爪切りあるから。(指さす)
(引き出しを開けてごそごそ探り、爪切りを出す)
これ?
そうそう。それ。貸してごらん。開けてあげるから。
(春花から爪切りを受け取って、左手で器用に展開する)
……(真剣な顔で貴子の手をのぞき込む)
(微妙な苦笑で、春花に手を差し出す)
気負わないで。リラックスして。
(春花が爪を切りやすいように、指をできるだけ開いてやる)
(貴子の薬指だけを取ってソロソロと爪切りを伸びた爪に持って行く)
………。
柄のね、端のほうを持つとやりやすいよ。ハルの力でも簡単に切れるし。
あとは、お母さんからやってもらってるのをよく思い出して。
あとは、お母さんからやってもらってるのをよく思い出して。
(ぷちん…。ぷちん…。)
そう。……丁寧で上手だね。
ハルは器用だよね。
ハルは器用だよね。
(一仕事終えて、腕で額の汗をぬぐう)はー。
(貴子を見上げて)痛くなかった?
うん。全然。
今度から、お母さんじゃなくて、ハルにやってもらおうかな?
今度から、お母さんじゃなくて、ハルにやってもらおうかな?
ホント?
うん。この指だけはね(春花に薬指を見せて微笑する)
……はい。コレ、元のところに戻して。それから、ピンクと白の板みたいの持ってきて。
……はい。コレ、元のところに戻して。それから、ピンクと白の板みたいの持ってきて。
うん。(爪切りを戻して、言われたモノを持ってくる)……はい!
ありがと。
(白の方を上にして、テーブルに置く)
お。よく覚えてたね。
押さえててあげる。
ありがと(置かれた板に切られた爪先を押し当てて、右から左に何度も引く)
ねぇ、貴ちゃん。
はい。なんでしょう?
他の指もやってみたい。
……うーん……お母さんの仕事を取っちゃうのも可哀想でしょ?
あ。じゃ、これとこの指は、春花にやってもらおうかな。他はお母さん。
(薬指と中指を春花に見せる)
どぉ?
うん。それでいいよ。
あ。じゃ、これとこの指は、春花にやってもらおうかな。他はお母さん。
(薬指と中指を春花に見せる)
どぉ?
うん。それでいいよ。
そのうち全部ハルにやってもらうと思うけど、そのときはよろしくね。
うん!……あ、はいどうぞー。(爪ヤスリを裏(ピンク側)に向ける)
お。よくぞ覚えてました。えらーい。
……ありがとね、ハル。
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(その日の夜)
……というワケで、今後は春花さんに中指と薬指はやってもらうことにしました。
(苦笑しながら)ほら、やっぱりあなたが一番春花に甘いんだから。
……しかしだね。危なくないか? まだ。
爪切りだから。
いや。貴子の指の方だよ。
ビカビカに切れるだろう?貴子の爪切りは。
兄貴。刃物は切れない方が危ないんだよ。
……お前の指先が切れる方が心配だぞ、俺は。
ああ、それだったら角度とか方向とか長さとか、こっちで微妙に調整してるから。
お前がいいなら、俺は口出しする幕はないからな。
……ま、よっく切れるとしても、爪切りだしね。所詮。
失敗されたくない指は、お嫁サマに切ってもらうからね、今まで通り。
失敗されたくない指は、お嫁サマに切ってもらうからね、今まで通り。
そういうところは抜け目がないのよね、あなたって。
いつものことじゃん?
……てかさ、だんだんおっきくなるんだねぇ。子供って。
なにを当たり前のことを(苦笑する)
ブラザーズはあんなこと言い出さなかったからさー。
なんか、面白くって。
なんか、面白くって。
なぜかお前ばかりに懐いてるからな、春花は。
へっへっへ。うらやましいだろー、とーちゃん。
ふん……言ってろ(微笑)
人の世話を焼きたがるのって、やはり女の子だからかしらね?
どーだろ?
アタシには単に、ハルはあんたの真似をしたいだけに見えるけどねぇ。
アタシには単に、ハルはあんたの真似をしたいだけに見えるけどねぇ。
え?
ははぁ、そういう見方もあったか。
柳原によーく似てるけどね、あの子は。
やること考えること。まるでトレースちゃんだなって、よく思う。
でもいいコトじゃない?
やること考えること。まるでトレースちゃんだなって、よく思う。
でもいいコトじゃない?
……今のウチはね。
まぁ、長い目で見てやろうよ。
……そうね。