恋人でなく。
恋人でなく。 本文
アラフォーで親友な聖蓉。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○蓉子のマンション 玄関
音
(ピンポーン)
蓉子
……いらっしゃい、聖。
聖
やぁやぁ。おひさー。
蓉子
とにかく、入って頂戴。
聖
では遠慮なく。おじゃましまーす。
○同 居間
蓉子
聖にお茶を勧めつつ)……で、最近はどうなの? 順調?
聖
まーねー。やっとなんとか軌道に乗ったって言うかねー。
蓉子
辛抱の時期が長かったわよね。
聖
ここ10年、何やっても上手くいかなかったもんね。
蓉子
ホント。良かったわ。
でも、足をすくわれないようにしないとね。
でも、足をすくわれないようにしないとね。
聖
そうね。今の取引先がいつ無くならないとも限らないからね。
でもまぁ、底上げできて、今はかなり楽になったよ。
相手方が「もういらね」って思うまで、がっつり頑張らせていただきます。
でもまぁ、底上げできて、今はかなり楽になったよ。
相手方が「もういらね」って思うまで、がっつり頑張らせていただきます。
蓉子
(微笑)
聖
ところで蓉子の方はどうなの?
そろそろ独立とか、考えてないの?
そろそろ独立とか、考えてないの?
蓉子
んー。私はもうこのままでいいかなって考えているのよ。
聖
あらま。蓉子さんらしくない。
蓉子
そうかしら?
聖
だって。人に使われるより、人をたくさん使ってそうなイメージがあるよ?
蓉子
部下はそれなりにいるもの。
聖
あ。やっぱり?
蓉子
独立するのは考えなくもないけど、そうなったら一人では仕事が回らないから
誰かを雇うって話になるだろうけど、それを考えたら二の足を踏んじゃうのよ。
誰かを雇うって話になるだろうけど、それを考えたら二の足を踏んじゃうのよ。
聖
ふーむ。
蓉子
私ひとりなら、潰れたってどうとでもなるけど、人を雇うとなると、その人に対する責任が出てくるでしょう。
お給料だって安くでというワケにはいかないし、だからといって人を育てている時間はないと思うのよ。
お給料だって安くでというワケにはいかないし、だからといって人を育てている時間はないと思うのよ。
聖
まぁねー。……て、一人でやってる私には、よく分からないことではあるけどね。
蓉子
お給料からボーナス、保険年金の掛け金、そして退職金……と考えていくと、おおざっぱに見込んでも……(紙に数字をサラサラと書き)これくらいは最低でも必要なのよね。
聖
ふーむ。……ちょっと破格な気もするけど……。
蓉子
専門職ですもの。国家資格を持った。これくらいは……ね。
聖
なるほど。
まぁ、自分の分以外にこれだけ稼ぎ出さなくては……と思うと、確かに…
まぁ、自分の分以外にこれだけ稼ぎ出さなくては……と思うと、確かに…
蓉子
雇われていた方が、すごく楽。
聖
んー……やっぱり蓉子らしくないなぁ。
蓉子
疲れているのよ。私もいい年だし。
聖
いやいや。それ言うと、同い年の私もそうなんだけど?
蓉子
そうね。……私のことより、聖はどうなの?
順調と言ってる割には、ちょっと元気がないように見えるけど?
順調と言ってる割には、ちょっと元気がないように見えるけど?
聖
ん。…いやーそんなことないよ。
蓉子
そう?
聖
そうそう。順調で寝る間もないくらいだから。
そうは言いつつ、盛大なため息が漏れる)
そうは言いつつ、盛大なため息が漏れる)
蓉子
……。
聖
ただ……さ。
蓉子
ただ?
聖
うん……(お茶に口をつける)
蓉子
……。
聖
仕事は順調にまわり始めたし、それが面白くてたまらないんだけど。
そーだねー……ちょこっとスキマがあるっていうか。
そーだねー……ちょこっとスキマがあるっていうか。
蓉子
隙間?
聖
(苦笑しつつ)うん、そう……ココ(自分の胸を指さす)に、ね。
なんとなくそんな感じがするの。
なんとなくそんな感じがするの。
蓉子
あら。誰かさんは、ちょっと前まですごくおモテになっていなかったかしら?
聖
え? ……ああ、もうそういうの、面倒くさい。
蓉子
面倒……。
聖
うん面倒。
そんなこと思っている自分が確かにいるのにさ、別の自分は反対のこと考えてたりするから、不思議だよ。
そんなこと思っている自分が確かにいるのにさ、別の自分は反対のこと考えてたりするから、不思議だよ。
蓉子
どんなこと考えているのかしら? もうひとりの貴女は(笑う)
聖
聞きたい?
蓉子
貴女が話したければ。
聖
ちぇー(笑う)
蓉子
……いいえ、ぜひとも聞きたいわね(微笑)
聖
……。
40数年生きてきてさ、こんなこと思ったのは初めてなんだけどねぇ……
40数年生きてきてさ、こんなこと思ったのは初めてなんだけどねぇ……
蓉子
(無言で先を促す)
聖
『彼女が欲しいなぁ』……って。
馬鹿みたいでしょう?
馬鹿みたいでしょう?
蓉子
……ホント。馬鹿ね。
聖
あ。やっぱり? (うへへ、と笑う)
蓉子
(肩をすくめる)
聖
(照れ隠しに頭をガリガリと掻く)私も年取って、弱気になってるのかしらね?
蓉子
(再び肩をすくめる)……。
聖
だからと言って、誰でも良いってわけじゃないんだよ?
とは言いつつ、具体的に誰がっていうことでもないんだけど。
とは言いつつ、具体的に誰がっていうことでもないんだけど。
蓉子
作ればいいじゃない。
聖
いやいや。そんなに簡単にできるものなら、人生苦労はしないワケでー。
蓉子
それはそうだけど、理想が高すぎるのではなくて?
聖
理想って。
具体的にどうこうってビジョンもないのに、理想がどうのこうのって言えないよー。
具体的にどうこうってビジョンもないのに、理想がどうのこうのって言えないよー。
蓉子
そう?
……じゃ、もし彼女になりたいって人がいたらどうする?
……じゃ、もし彼女になりたいって人がいたらどうする?
聖
えー? 立候補? (盛大に苦笑)それはちょちー……。
……て、そーいや蓉子って、身持ちが堅いよねぇ。
……て、そーいや蓉子って、身持ちが堅いよねぇ。
蓉子
私のことはこの際どうでもいいでしょう?
聖
いやー、ふとそう思っただけで。
てか、私が知らないだけで、ちゃっかり彼氏なんかいたりするんじゃない?
てか、私が知らないだけで、ちゃっかり彼氏なんかいたりするんじゃない?
蓉子
いないわよ。
聖
あら、即答? (苦笑)
蓉子
現在にも過去にもいないから。
聖
え? ……(ちょっと真顔)
蓉子
身持ちが堅すぎてね。
聖
えーとぉ……。
蓉子
……ということで、聖さん。
聖
……はい?
蓉子
ちょっと話は戻したいのだけど、良いかしら?
聖
はい、どこまで?
蓉子
立候補。
聖
……なんの?
蓉子
彼女。
聖
誰の?
蓉子
もちろん、貴女の。
聖
……え? 誰が?
蓉子
(真顔)私が。
聖
誰の?
蓉子
貴女の。
聖
………(驚いて間抜け面)
蓉子
……(真顔)
聖
……。
蓉子
………。
聖
……。
蓉子
(目がニヤ、と笑い)冗談よ。
聖
……え……。
蓉子
……でもまぁ、ちょっと考えてくれると嬉しいわね。
聖
……え?……。
蓉子
(立ち上がって) ……何か飲む? それともゴハンにする?
聖
……あ。はい……。