へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

過去と未来のはざまの日 —ヒナセと日向とときどき明石—

過去と未来のはざまの日 —ヒナセと日向とときどき明石— 本文

 日向改二実装記念。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
○ヒナセ基地工廠(という名の掘っ立て小屋) ヒナセ・日向・明石
ヒナセ
……どう?

 

日向
うむ……悪くない。

 

ヒナセ
それは体調のこと? それとも新しい装備のこと?

 

日向
どちらもだ。

 

ヒナセ
それは良かった。

 

日向
少し体が軽くなった気がする。

 

ヒナセ
ふむふむ……(手帳に書き付け)
ところでさ、ヒナタ。

 

日向
なんだ?

 

ヒナセ
これ……いる?(2本の指でつまんだ丸いモノを見せる)

 

日向
………。

 

ヒナセ
あら驚いてるね。

 

日向
……私だって驚くこともある。

 

ヒナセ
いやぁ、目が見開いてる日向は初めて見た(やや苦笑)

 

明石
これはナカナカめずらしいモンが見れましたやね(ひひひ、と喉の奥で引き攣ったように笑う)

 

ヒナセ
うっすら笑うのはよく見るようになったけど、驚いた顔は初めて見たかも。

 

日向
(憮然としながらもやや照れて)君がいきなりそんなもの出すからだろう。
なんで今さら? とこっちは正直思うぞ。

 

ヒナセ
んー……そうねぇ……基地専任艦というのも、そろそろ無理があるかなぁって。

 

日向
なんだそれは?

 

ヒナセ
基地専任艦に空きを作りたい……が、本音だったり。

 

日向
だったら、単に私を専任艦から外すだけでいいんだぞ?

 

ヒナセ
いやそれは困る。

 

日向
即答だな。

 

ヒナセ
当たり前でしょ。
君は他所にはやれない。だから専任艦にしている。
ただ、基地専任艦では本部に無理矢理持って行かれる可能性がないとは言い切れないし、さっきも言ったように基地専任艦の空き枠がそろそろ満杯だからね。
だから、君を私個人の専任艦にするのが、安全かつ理にかなっていると思う。

 

日向
………(うっすら渋い顔)

 

ヒナセ
……れ?

 

明石
……てーとく。もっと言い方があるんじゃござんせんかね。

 

ヒナセ
……そう?

 

明石
そーですよ。カワチ提督が今の聞いたら、間違いなくあとで説教されますよ。

 

ヒナセ
そんなこと言われましても。

 

日向
(ため息を吐いて)……君の歯に着せぬ物言いは重々理解しているが、年々酷くなるな。
私は気にしないが、新規で受け入れた娘《こ》たちへの言動は気をつけた方が良い。
……ま。君は命の恩人で今の主人だ。異存は無いよ。改二改装もしてもらったことだしな。

 

明石
あー。ちょっとタンマしていいすか?

 

ヒナセ
明石?

 

明石
今日はアタシが許可したくないです。

 

ヒナセ
なんで?

 

明石
アタシにゃその権限がありますんでね。
そもそも日向さんはつい今し方改二改装が終わって出渠したばかりです。
現時点でこれといった不具合がなくても、時間経過と共に出てくることもありますからね。物理はともかくメンタルが。
特に改二改装後は、体の変化に心がついてこなくて、精神バランスを崩す子が実に六割を超えるというデータもありますし。

 

ヒナセ
そんなに?
過去の記録にそんなの載ってないじゃない。

 

明石
そこなんすよ。艦娘ってぇのはね、てーとく。提督《ご主人》に心配を
かけたくないモノなんですよ。だから精神的にしんどくても表面取り繕っ
ちゃう子が多いんです。特に日本艦艇はね。実にニッポンジンらしいじゃないですか。

 

ヒナセ
……ふむ。
………。
わかった。じゃ、これは明日以降にしよう。どのみち急いでないから(無造作にボトムのポケットに仕舞う)

 

明石
そうして下さい。
二十四時間経過後は、好きになすって構わないです。
様子見しながら、準備しときますよ。

 

ヒナセ
うん。よろしくです。
じゃ、私は執務室に戻ります。ヒナタ。今日はもういいから上がって。

 

日向
………。
提督。

 

ヒナセ
なに?

 

日向
菜園に出ても良いだろうか?

 

ヒナセ
明石が良いって言うならいいけど……少しは休みなよ。

 

日向
いや。体を動かしていたい。そろそろ里芋の間引きをしなければいけないからな。
今日明日あたりに芋茎《ズイキ》を食卓に出せると思う。

 

ヒナセ
(明石を見る)

 

明石
(肩をすくめて)畑作業をするくらいならゼンゼン構いませんよ。
海と違って、沈むことはないですからね。

 

日向
うむ。じゃ、ちょっと作業をしよう。
提督。二、三隻《にん》使うぞ。

 

ヒナセ
了承します。綾波たちなら大丈夫じゃないかな。
あ。あともしもの時のために、神通を同行させて。

 

日向
うむ。わかった。ありがとう。

 

ヒナセ
私も自分の仕事が一段落したら菜園に出るよ(工廠を出て行く)

 

明石
………。

 

日向
………。

 

明石
よく我慢しますねぇ。

 

日向
いや。そうでもないぞ。

 

明石
そうなんすか?

 

日向
正直、一瞬ムッとする時もあることはあるが、他意がないのも分かっているからな。

 

明石
他意がないからこそ、腹が立つってこともありますよ。

 

日向
私はその辺りの感情はよく解らない。
昔の私はどうだったか知らないが。

 

明石
日向さん。

 

日向
ん?

 

明石
アタシの見立てじゃ、アンタはさほど壊れちゃいないと思ってるんですけどね。

 

日向
そうか?

 

明石
ええ。
本格的に壊れているなら、たぶんですけど、改装に耐えられないんじゃないですかね。

 

日向
そうか?

 

明石
前任の『明石』から引き継いだカルテによると、確かにアンタは頭半分以上削られちゃって、根幹部分の情報もかなり吹き飛んじゃってる。だから通常の艦娘の通常の状態とは、言い難いです。
そもそも稼動していることすら奇跡みたいなものですよ。

 

日向
君も提督同様に、歯に衣着せぬ物言いをするな。

 

明石
『明石』は忖度しすぎる性格だとやってられませんからね。
アタシもそうですけど、稼動期間の長い『明石』は毒舌になりやすくてねぇ……艦の性質とは言え、ちょっと損な性格してますよ。

 

日向
ふぅん ……(気のない返事)

 

明石
そもそも『明石』自体が、戦闘海域にはあまり出ませんからね。
稼動十年はヒヨッコで、三十年以上でやっと中堅ってとこなんすよ。ベテランって言われるのは五十年以上稼動の『明石』じゃないんですかね。
……もっとも、これ『明石』内《うち》でのお話ですがね。

 

日向
……だろうな。
五十年稼動の艦娘なんて、すべての艦娘の中でも数えるほどしかいないだろう。

 

明石
「数えるほど」は大げさですよ。まぁ、ざっと軽く見積もっても二~三百隻くらいはいると思います。アタシ個人で直接会ったことがある艦娘でも二十隻くらいいますから。

 

日向
そうか。

 

明石
もしかしたら五百隻くらいはいるかもしれませんね。
……ウチの『隼鷹』さんなんて、ベテラン候補じゃないですかね。
彼女、確か連続稼働四十年超えの艦娘でしょ? 凍結経験もないしドロップ艦でもないから、本当の意味で希少艦ですよ。ここに配属され続けているのも頷けます。

 

日向
ここに来た時はアルコール中毒で解体寸前だったようだがな。

 

明石
理由はどうであれ、ここに来たってのが、彼女にとっては僥倖だったかもしんないってことです。

 

日向
話が逸れていないか?

 

明石
いいえぇ。
アタシにはねぇ、日向さん。
ここに来て長く留まる艦娘たちって、大なり小なり意味があって集ってんじゃないかって、思うワケですよ。
あの、のほほん提督のもとに、訳あり艦娘が集まってくる。そうじゃないのもいますけど、結局ここから離れがたい理由があって、離れられない。
その中心にヒナセ提督がいる……そう思いませんか?

 

日向
何が言いたいのか理解できんな。
……あまり難しいことを考えさせないでくれ。

 

明石
頭痛が出ますか?

 

日向
そうだな。頭が締めつけられる感じで、痛い……とかはないが、チリチリする。
……そう……チリチリだ。

 

明石
これはすみません。
じゃ、この話は、お終いで。

 

日向
ああ、そうしてくれ。

 

明石
頭痛が酷いようでしたら、外の作業は控えめにして下さい。

 

日向
するな……とは言わないんだな。

 

明石
まぁ、アタシも見てますんで、「あこりゃダメっぽいなー」と思ったら、ドクターストップならぬ、「明石ストップ」発令します。……タオル投げても良いですけど(ひひひ、と笑う)
ま、アンタは、ご自分や周りが思ってるほど『壊れて』やしませんよ。 ……あくまでも『明石《アタシ》』の見立てでは、ね。

 

日向
わかった。留意しておこう。

 

明石
ええ。そうして下さい。あまりご自分を卑下することのないように。

 

日向
わかった。忠告ありがとう。

 

明石
いえいえ。どう致しまして。

 

日向
じゃ、作業に出てくる。

 

明石
はい、行ってらっしゃいませ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○翌日 同工廠 ヒナセ・日向・明石
日向は椅子に座り、腰と首の艤装接合部にケーブルが数本繋がれている。
ケーブルの先には分厚いタブレット端末。操作者は明石。
明石
(顔を上げて)さて、てーとく、日向さん。心の準備はよござんすか?

 

ヒナセ
…………。

 

明石
……? どうなさいました?

 

ヒナセ
んにゃ……。
……君、ホントに明石……だよね?

 

明石
(首をかしげて)もちろんですよ? ……で、そのココロは?

 

ヒナセ
んー……なーんか『明石』のイメージからブレるっていうかね。
もっとも、よく知ってる『明石』は、アサカ提督んトコの明石だからね。

 

明石
ああ、あの娘はごく一般的な『明石』ですからね。

 

ヒナセ
……君は、違うんだ?

 

明石
いいえぇ。そんなことないですよ(ひひ、と喉の奥で引きつったように笑う)
ただね、アタシゃ稼動が長いほうなんで……と言っても、鳳翔さんや隼鷹さんほどじゃないですがね。

 

ヒナセ
ふぅん(眼鏡が光って、一瞬表情が見えなくなる)

 

日向
二人とも、話が逸れているぞ。

 

ヒナセ
ああ、ゴメンゴメン(ボトムのポケットから銀の輪っかを取りだして指につまむ)

 

明石
相変わらず無造作に持ち歩きますねぇ。

 

ヒナセ
だって、ただの輪っかじゃない。
これ自体には特にこれって仕掛けはないんでしょ?

 

明石
まぁそうなんですけどね(苦笑する)
それでも雰囲気って大事じゃないですか。いわゆる『形式』ってやつですけど。

 

ヒナセ
んー……私はそういうの、よくわからない、かな。

 

日向
そうか? 鳳翔との時は、まずなかなか踏ん切れなかった上に、
さぁその時になってもジタバタと足掻いていたと、電《いなづま》が言ってたぞ?

 

ヒナセ
~~~~……何でも初めてのことは慎重にならざるを得ないでしょ。
ただそれだけのことだよ(憮然と言い放つ)

 

日向と明石「素直じゃないなぁ」と無表情でヒナセを見る。
ヒナセ
とっととやっちゃおう。このあともやんないといけないことが山盛りなんだし。

 

明石
ほんじゃま、てーとく。その輪っか、日向さんにどうぞ?

 

ヒナセ
(ムッツリとやや機嫌悪そうに)……ヒナタ(指輪を入れた拳を差し出す)

 

日向
(手のひらを差し出す)

 

ヒナセの拳の中から日向の手のひらに指輪が落ちる。
日向
(手のひらで指輪の存在を確かめるようにぐっと握って)
……ムードもへったくれもないが、それもまた我々らしいな。
(うっすら笑いながら自ら指輪を左の小指にはめ、その手を拳にしてヒナセに差し出す)

 

ヒナセ
(日向が差し出した拳を右手でぐっと掴み)明石、やって。

 

明石が苦笑しながら端末を操作する。
端末から時折ピピピ、ピピピ……と小さな音が発せられ、
最後にピーと長い音が数秒。それが停まり……
明石
はい、終了です。お疲れさまでした。
いやぁ、こんなにムードのない授受式は、さすがのアタシも初めてですねぇ。

 

ヒナセ
(日向から手を離して、ごく小さくホッと溜め息をつく)

 

日向
……まったく。君は本当に心配性だな(口角が僅かに上がっている)

 

ヒナセ
(機嫌の悪かった真意を見破られて、ややばつの悪い顔)

 

日向
何はともあれ、これからもよろしく頼む。
君は私の命を繋いでくれた恩人だ。最後まで私に対する責任を果たせ。
(日向の顔が明確に「に、」と笑う)

 

ヒナセ
(それをみて驚き、目が見開く。眉間に皺が寄った信楽焼のタヌキのような顔)
……退役する時までに、完全復帰してくれると、大いに助かるね。

 

日向
そうならなかったら機能停止してくれ。
なに構わん。これ以上君以外の提督に仕える気はない。君が最後の私の主人だ。

 

ヒナセ
(肩をすくめて)定年まであと30年はゆうにあるからさ、そのあたりはゆっくり考えといてよ。気が変わるかもしれないでしょ。

 

日向
(笑って)……そうだな。

 

明石
さて、そろそろ失礼しますよ。往診に行かなくちゃ、なんで。
(往診と書かれた大きなのバッグを肩から斜めがけにする)
日向さんはもう少し安静になさってて下さい。今日は散歩……軽作業くらいまでなら許可します。……あ、ウチの子一人付けときましょうか?

 

日向
いや、構わない。
今日は提督と一緒にいることにする。

 

明石
おやまぁ、お熱いですね。
では、お先に。

 

明石、工廠から出ていく。
工廠がしん……と静かになる。隣のドックから明石の妖精さんたちの声が小さく漏れ聞こえてくる。
日向
提督、苗園《びょうえん》に行こう。

 

ヒナセ
……? うん、いいよ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○ヒナセ基地 苗園
文字通り苗を育てる専用スペース。
ここは基本的に限られた者しか入れない。
日向
提督、明石のこと、どう思っている?

 

ヒナセ
うーん……あからさまに怪しいんだけど、何が怪しいのかよくわからない。
なんていうのかなぁ……『明石にしては、どこか変』って感じかな。
初めて会った時からこの感覚が取れないんだよね。

 

日向
本部基地から派遣されてきた『明石』だったな?

 

ヒナセ
うん。ヒロミさん経由だけど、実際には佐世保から派遣されてきたみたいだね。
本部《鹿屋》にはあの明石はいなかった。
そんなわけだから、警戒しつつ様子見はしているんだけど、大淀ほどの警戒は、今のところしてないかな。

 

日向
私は大淀のほうがまだマシに見えるが?

 

ヒナセ
大淀は鹿屋《本部》のみならず、他の鎮守府にも繋がってるホットラインを担当しているからね。
……そういえば、ウチの明石は大淀にさほど執着してないんだよねぇ。どちらかと言えば遠ざけてる感じがある。そこもめずらしいよね。

 

日向
そういうものなのか?

 

ヒナセ
どの明石もそうってわけじゃないけど、明石と大淀は他の艦娘と違って対で運用することが多いから、お互いに好意を持ちやすいみたいでね。
だから、遠ざけてるそぶり……てのが、ちょっと違和感があるというか。

 

日向
なるほど。
では、それとなく様子を気にするようにしよう。

 

ヒナセ
それはありがたいけどさ、日向の目はいくつあるのか、そっちの方が気になる。
君、妖精さんいないでしょ?

 

日向
いないな。出すこともできない。

 

ヒナセ
嘘は……

 

日向
ついていない。

 

ヒナセ
……というか、つけない……よね。

 

日向
ああそうだ。頭が半分吹き飛んだからなのか、もともとなのかは知らん。

 

ヒナセ
(そっか……と小さく呟いて)ま、どっちにしても無理はしないでね。
君、しょっちゅう私の傍に潜んでるでしょ?

 

日向
そんなこともないぞ? 菜園にいる時間も長いからな。

 

ヒナセ
……まぁ君の勘の良さにはいろいろ助かってるところがあるから、この話はここで終わり。

 

日向
うむ。

 

ヒナセ
君にとっては不幸すぎる経緯でここに来たろうけど、私にとっては大事な戦艦第一号だ。改めてこれからもよろしく(ぐーを日向に差し出す)

 

日向
君以外に拾われたなら、もう私はこの世にはいなかったろう。
生き延びたことに対して思うことがないわけではないが、助けてくれたことについては心から感謝している(ぐーをヒナセに差し出す)

 

ヒナセと日向、お互いに拳を合わせて軽く押し合う。
ヒナセ
じゃ、今日は私の傍でずっと護衛をしてて。
午後からは菜園で作業する予定だから。

 

日向
うむ。了解した。

 

ヒナセ
じゃ、まずは司令部に戻ろうか。
みんなに改めて紹介するよ。

 

日向
(さっと敬礼し)アイアイ・マム!(にこ、と明確に笑う)

 

ヒナセ
(さっと腕を上げ、返礼する)
(腕を下ろして)行こう(身を翻して、苗園を出、司令部棟へ歩き出す)

 

日向
うむ(それに付いて行く。改二改装で長くなった袖が風になびき……)

 

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