いのちをつなぐ。
いのちをつなぐ。 本文
ずっと書きたいと思っていた一遍を。
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○こちらを覗き込む電
電
はわ……(大きな目をさらに見開いている)
画面は電を見上げる感じだが、実際には電がこちらを覗き込んでいる。
位置関係は電が上でこちらが下。
実はこちらは電の足下にある箱の中のとあるモノ。
さて。このモノが、今回の主役。
位置関係は電が上でこちらが下。
実はこちらは電の足下にある箱の中のとあるモノ。
さて。このモノが、今回の主役。
「パタン」という乾いた音と共に暗転
○ヒナセ基地(最初期)の台所
電
はわわ……ど……どうし……
ひとり途方に暮れる電。
足下にはキャスターの付いた蓋付き木箱。 途方に暮れたまま、電は宙と木箱を交互に見ている。
足下にはキャスターの付いた蓋付き木箱。 途方に暮れたまま、電は宙と木箱を交互に見ている。
電
えっと……えと……し……司令官さん……に……(カタカタ震え始める)
ごっ……ごっ……
ごっ……ごっ……
目が泳ぎ、脂汗をかき始める。
電
……ごめ……め……はわ……わ……わわ……
カタカタとぎこちなく首と視線を動かして、木箱を見る。
過去の記憶――つまりは前の提督の頃のこと――を思い出して、
身がすくんでしまい、足を出そうにもまったく動かない。
今にも卒倒しそうになっているその時――
過去の記憶――つまりは前の提督の頃のこと――を思い出して、
身がすくんでしまい、足を出そうにもまったく動かない。
今にも卒倒しそうになっているその時――
声
デンー?
電、その声にビクッと飛び上がる。
声の主はもちろんヒナセ。
声の主はもちろんヒナセ。
声
デン? ……あれ? どこかな。
デーン。
デーン。
ヒナセが台所の入り口から顔を出す。
ヒナセ
あ。いた。
電、ヒナセのほうを見る。完全に硬直している。
ヒナセ
……? どしたの?
電
はわ……わ……
ヒナセ
(電が真っ青になって動けなくなっているのに気がついて)……!
……ん? どした?(ちょっと困った顔で微笑むが、その場からは動かない)
……ん? どした?(ちょっと困った顔で微笑むが、その場からは動かない)
電
し……司令官……さん。
ヒナセ
なのですよ。
電
ご……ごめんな、さい……なの……です(最後は消え入るように)
電の目が泳いでいる。
ヒナセ
?? どうしたの?(ゆっくり近づく)
電
その……(ぎこちなく首が動いて、木箱のほうを見る)
ヒナセ
ん? イモ箱?(近づいて開ける)……あ。
電
(下を向いてカタカタ震えながら)いなづま……お……おやさい、のかんりを……
ヒナセ
(その様子を見て「ふ」と小さく息を吐いて)ジャガイモの芽が出ちゃったねぇ。
電
ご……ごめんなさ、い。
ヒナセ
あー……まぁこれは仕方ないかなー。
電
………。
ヒナセ
(電に近づいて、ひょい、と抱き上げる)
電
ひぁ……(硬直する)
ヒナセ
(電をぎゅ、と抱いて、その耳元で)……大丈夫だよ。怒ってない。
むしろ私のほうが、君に謝らないと。
むしろ私のほうが、君に謝らないと。
電
はわわ……(ぐらぐらしている)
ヒナセ
危ないから、私をぎゅってしてくれるかな?
電
は……はい……なの、です(言われたとおりにする)
ヒナセ
はい、上出来。
しばらくそのままでいるが、ヒナセがさすがに疲れてしまい、
電をテーブルの上に座らせてから、少ししゃがんで電と目線を合わせる。
電をテーブルの上に座らせてから、少ししゃがんで電と目線を合わせる。
ヒナセ
(にこ、と笑い)落ち着きましたか?
電
……なの、です。
ヒナセ
なのですか。
電
あの……ごめんなさいなのです。
ヒナセ
君が謝ることじゃないよ?
電
で……でも、貴重なたべものが、食べられなく……なったの、です。
変なものが、出て、いるの、です。
変なものが、出て、いるの、です。
ヒナセ
(芽が出たジャガイモの一つを手にとって)まぁ食べられないわけじゃないけど、
ここまで芽が出ちゃったら、美味しくはないかな。……ホラ、ふにゃふにゃになっちゃったし(ジャガイモをプニプニと握って電に差し出す)
触ってごらん。
ここまで芽が出ちゃったら、美味しくはないかな。……ホラ、ふにゃふにゃになっちゃったし(ジャガイモをプニプニと握って電に差し出す)
触ってごらん。
電
(おそるおそるヒナセの手の中にあるジャガイモに触れる)
……ふらふわ、なのです。
……ふらふわ、なのです。
ヒナセ
中の栄養が、(芽を指さして)この芽に食べられちゃったからね。
電
(うつむく)
ヒナセ
おイモたちはさ……あ、タマネギとかもそうなんだけどね、まだ生きてんの。 この子たちはね、土から出してこうやって箱に入れてても、死んでないんだよ。
電
……?
ヒナセ
ジャガイモは、地下倉庫にまだたくさんかこってあるから、心配しないで。今日の分は、あっちから出してこよう。
……で、この子らは……んー……明日やりますか。
今日はもう遅いからね。
……で、この子らは……んー……明日やりますか。
今日はもう遅いからね。
電
はわ……。
ヒナセ
というワケで、このお話は明日しようね。
じゃ、あっちからジャガイモ出してきて、晩ゴハンの用意をしますか。
電、手伝ってくれますか?
じゃ、あっちからジャガイモ出してきて、晩ゴハンの用意をしますか。
電、手伝ってくれますか?
電
は、はい…なのです。
ヒナセ
よろしくお願いしますのです。
ヒナセはにっこり笑って、電に軽く敬礼した。
○翌午前中 ヒナセ基地の家庭菜園(まだ規模は大きくない) ヒナセと電
ヒナセと電が畑に出ている。彼女たちの足下には手蓑《テミ》が三つあり、その一つの中には昨日の芽が出たイモと包丁が入れてある。
もう一つには灰が入れてある。
最後の一つは空である。
ふたりでストレッチ代わりの体操をかるくやってのち、手蓑のそばに座りこむ。
もう一つには灰が入れてある。
最後の一つは空である。
ふたりでストレッチ代わりの体操をかるくやってのち、手蓑のそばに座りこむ。
ヒナセ
(ジャガイモを一つ手にとって)昨日ね、この子たちはまだ生きているんだよって話をしたよね。
電
(こくん、とうなずく)
ヒナセ
だからね、土に埋めてやるんです。
電
はわ……。
ヒナセ
こうやってね……
(ジャガイモをいくつかに切り分ける。一つのかけらに一つの芽…くらいの要領で)
電
(目を見開く)……切っちゃったの、です。
ヒナセ
(うん、とうなずき)……で、こいつをさらにこうします(切り口に灰をちょん、と付ける)
さ、私が切るから、電はこうやって、灰を付けてくれますか?
付けたらこっち(空のテミに自分で灰を付けたジャガイモを入れ)に入れてね。
さ、私が切るから、電はこうやって、灰を付けてくれますか?
付けたらこっち(空のテミに自分で灰を付けたジャガイモを入れ)に入れてね。
電
はい、なのです。
ヒナセ
そうそう。これはね、手蓑《テミ》って言います。
地域によってはエビジョウゲとかって言ったりするかな。
私の父や伯父はエブって言ってたから、ずっとそうだと思ってました(あはは、と笑う)
地域によってはエビジョウゲとかって言ったりするかな。
私の父や伯父はエブって言ってたから、ずっとそうだと思ってました(あはは、と笑う)
電
テミ……えぶ?
ヒナセ
まぁどっちでもいいよ。一般用語としてはテミだから、テミのほうがいいかもね。 私はついうっかりエブって言っちゃうかもしれないけど。
……まぁいいや、とりあえず急いでやろう。
今日の午前中のお仕事は、このジャガイモを植えることです。
(言うと、手慣れた手つきでジャガイモを切り分けて、電のそばに置く)
……まぁいいや、とりあえず急いでやろう。
今日の午前中のお仕事は、このジャガイモを植えることです。
(言うと、手慣れた手つきでジャガイモを切り分けて、電のそばに置く)
電
はいなのです(置かれたジャガイモの切り口に灰を付けていき、空手蓑の中に丁寧に並べていく)
ヒナセ
いい手つきだねぇ(ニコニコと笑う)
電
あの……し、司令官、さん。
ヒナセ
はいなんでしょう。
電
じゃがいもさん、土に埋めたら、どうなるの、ですか?
ヒナセ
埋めたらねぇ……この芽がさらに大きくなって、土の外に出てきて、葉っぱが出てきてさらに大きくなって、そのうち花が咲いて、土の中にジャガイモができます。
この一片でたくさんのジャガイモができるから、収穫したらしばらくイモに不自由しなさそうだねぇ。
この一片でたくさんのジャガイモができるから、収穫したらしばらくイモに不自由しなさそうだねぇ。
電
はわ……。
ヒナセ
だからね、ジャガイモは芽が出ちゃったら、場合によってはこうやって植えてやればいいの。
こうやればね、次のジャガイモができるよ。無駄にならない。
いのちは続いていくんだよ。……もっとも、ダメな場合もあるけどね。 そこはさ、掛けみたいなものだから。
こうやればね、次のジャガイモができるよ。無駄にならない。
いのちは続いていくんだよ。……もっとも、ダメな場合もあるけどね。 そこはさ、掛けみたいなものだから。
電
掛け……??
ヒナセ
あーわかんないか。
私の父がよく言ってた言葉がね『種まきと人生はロシアンルーレットだ』なんだけど、人生はともかく、植物を育てるってそうだなぁって思うね。
いろんな状況とか環境や天候で、たくさんできたりまったくできなかったり。
ホントにね、農業って面白いなっておもいます。
私の父がよく言ってた言葉がね『種まきと人生はロシアンルーレットだ』なんだけど、人生はともかく、植物を育てるってそうだなぁって思うね。
いろんな状況とか環境や天候で、たくさんできたりまったくできなかったり。
ホントにね、農業って面白いなっておもいます。
電
ろしあん……??
ヒナセ
ルーレットっていう賭け事の方法があるんだけど……賭け事っていうのは……
ホラ、こないだやったあみだくじみたいなヤツね。当たったり外れたり。
ホラ、こないだやったあみだくじみたいなヤツね。当たったり外れたり。
電
おもしろかったのです。
ヒナセ
それは良かった。
電
でも、司令官さんより多くもらってしまったのです。
ヒナセ
デンはくじ運がいいよねぇ。
まさか飴をあんなに当てちゃうなんて、思わなかった。
まさか飴をあんなに当てちゃうなんて、思わなかった。
電
よ……よかったのですか?
ヒナセ
もちろん。あれは全部、デンのものですよ。
電
だ……大事に食べるのです。
ヒナセ
そうしてください。虫歯になってもここじゃすぐに治療できないから、食べたあとは、ちゃんと歯磨きもしてね。
電
はいなのです。
ヒナセ
ロシアンルーレットってうのは、簡単に言うと、命がけの賭け事でね。
当たっても外れても大きい……って意味らしいよ。
当たっても外れても大きい……って意味らしいよ。
電
???(首をかしげる)
ヒナセ
ふふ……(ニコニコと上機嫌で作業をしている)
そうこうしているうちに、ジャガイモは切り終わり、灰も付け終わって。
ヒナセ
さて、これをこっちとこっちの畝に、植えていきますか。
だいたいこのくらいの間隔(約三十センチほど)を開けてね。
このくらいの深さで、こんな感じに芽を上にして、植えていきます。
……わかった?
だいたいこのくらいの間隔(約三十センチほど)を開けてね。
このくらいの深さで、こんな感じに芽を上にして、植えていきます。
……わかった?
電
わかりました、のです。
ヒナセ
OK。じゃ、競争しようか?(にっこりと笑う)
電
はわ……。
ヒナセ
君は初めてだから、ハンデ付けよう。
(右の畝の中央付近に行って線を引く)ここがお互いのスタートね。
……で、君は向こうに向かって植えて、私はこっちに向かって端まで行ったらこっちの畝にも植えます。ゴール地点は向こうね(電の進行方向を指す)
お互いに畝の向こう端にたどり着いたらゴール。
どっちが早いか競争。……どう?
(右の畝の中央付近に行って線を引く)ここがお互いのスタートね。
……で、君は向こうに向かって植えて、私はこっちに向かって端まで行ったらこっちの畝にも植えます。ゴール地点は向こうね(電の進行方向を指す)
お互いに畝の向こう端にたどり着いたらゴール。
どっちが早いか競争。……どう?
電
はわ……。
わ……わかりましたの、です。
わ……わかりましたの、です。
ヒナセ
これが終わったら、ちょうどお昼を作る時間くらいになるかな。
じゃ、始めようか。
じゃ、始めようか。
電
はいなのです。
ヒナセ
じゃ、君はこっち側に来て。そう。
私はこっち側にポジション取ります。お互い右利き同士だから、ぶつからなくて済むよ。
私はこっち側にポジション取ります。お互い右利き同士だから、ぶつからなくて済むよ。
電
(ヒナセに言われた通りの位置に付く)
ヒナセ
(灰の付いたイモ2/3ほどを、今は空になっている手蓑に移して自分のほうに置き、1/3を電のほうに置く)こっち、君の分ね。足りなかったら悪いけど私のところまで取りに来てくれる?
電
はいなのです(柄に『まづない』と書いてある移植ごてを握っている)
ヒナセ
お。やる気満々ですね。
電
なのです。
じゃがいもさん、たくさんになるなら、いなづまはがんばるのです。
司令官さんにはまけないのです。
司令官さんにはまけないのです。
ヒナセ
(電の様子に心から満足しきった笑顔で)よし。じゃ……位置についてー……よーい……
電
(真剣な顔で合図を待つ)
ヒナセ
スタート(ゆっくりとでも確実に土に移植ごてを入れる)
電
はいなのです。
人ひとり艦《ふね》ひとり。
畑で黙々とイモを植えていく。しばらくは徐々に離れていったが、
やがて人が折り返して艦との差をジワジワと縮めていく。
空は快晴。風が畑の周りの草を揺らしている。
畑で黙々とイモを植えていく。しばらくは徐々に離れていったが、
やがて人が折り返して艦との差をジワジワと縮めていく。
空は快晴。風が畑の周りの草を揺らしている。