へっぽこ・ぽこぽこ書架

二次創作・駄っ作置き場。 ―妄想と暴走のおもむくままに―

艦これ駄文。

ヒナセと電・出会い。 

ヒナセと電・出会い。 本文

はじまりの、さらにはじまり。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヒナセ大佐、将官になる気はない?
……は?
なければ結構。
……そりゃまぁ、定年の年限が伸びますし、年金も待機期間なくすぐにもらえるようになるので、なれるのなら願ったりかなったりですが。
が?
裏がありますよね? それも、碌でもない。
ええ、まぁそうね。
そもそも次長は、私をこのまま定年までここに置くおつもりだったのでは?
そんなことはないわよ。役に立ってるからそばに置いてるだけで、そうじゃなくなったらいつでも余所に行ってもらいます。
…………(肩をすくめる)
アナタにその気がないなら、この話はおしまい。
条件次第ですね。
碌でもないオマケがなんなのか次第って感じです。
わかったわ。来てちょうだい。
------------------------------------------
碌でもないオマケは、ここにいるわ。
のぞき穴にマジックミラー……いいご趣味で。
私じゃないわよ。
でしょうね。
…………アサカ次長……これは?
何に見える?
駆逐艦……ですね。暁型……四番艦。『電《いなづま》』……ですか?
ええ。
あれのどこが、碌でもないオマケなんで……
壊れているのよ。
……入渠や明石に任せる程度では修復できない程度には壊れている…というわけですか。
ええ。完全な修復は不可能かもね。
見た感じでは小破すらもしてないように見えますが?
体の方じゃないのよ。
………。
部屋にもどりましょう。
はい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ことの始めは、某鎮守府所属のとある基地の責任者が、任務中に戦死したことよ。
まぁ、それなりによくあるお話で。
そうね。
指揮していた艦隊は全滅。基地には十四隻の艦娘が残されていた。
管轄鎮守府の艦政部がこれを回収したのだけど、十四隻すべてが破損・故障。その状態があまりにも酷かったものだから、隠しきれなくて艦政本部に泣きついてきてらしいの。
艦政本部が引き取って状態を調べたところ、戦闘での破損はいうまでもなく、精神的にダメージを負った子たちばかりだったそうよ。
メンタルのケアをしていなかったと。
それよりももっと酷いことね。
………。
回収された十四隻のうち、修復・初期化ののちに新しい提督の元に引き渡されたのが五隻。
修復不能で解体されたのが八隻。最後のひとりが、あの『電』よ。
あの子は現在、修復も解体もできなくて、宙に浮いている状態なの。
端的に言えば、艤装を纏うことができず、艦になれない。
であっても、解体はできるのでは?
あなた、女の子を自分の手で殺したい?
……いえ……失礼しました。
この手の問題は、今まで現場で秘密裏に処理されてて公になっていなかっただけで、昔から常態的にあったと思ってる。むしろ、昔のほうが多かったのではないかしら。
(作戦行動中に海に投げ捨てれば証拠は残らないし、上部には轟沈と届け出れば丸く収まる…か、くそったれ……)……昔は、提督と言えば男だけでしたが、それと関係あるんですかね。
さぁ。それはどうかしらね。……過去の内実はどうであれ、今回が公式には初めてのケースだから、艦政本部も困り果てているようよ。
それが証拠にあの子、艦医本部やら技術本部やらと、あちこちたらい回しにされたあげく、とあるルートからこちらに送られてきたの。
とあるルート……ですか。
ええ、〝とあるルート〟よ。
……なるほど、了解です。
で、あの『電』が、ああなった原因は分かっているんですか?
……聞きたい?
………。
……あ、いや結構(顔を盛大にゆがめる)
あなたが思っていることから、さほど遠くないところに正解はあると思うわよ。
(……ち)
さらに言えば、人間を怖がるし、海にすら近づけない。
艤装がまとえない云々以前に、艦としてはほぼ使い物にはならない状態よ。
それを踏まえて、あの子を引き受けてもらえたら……と思っているのだけど。……いろんな意味でリスクは大きいわね。
なるほど、その大きなリスクに見合った報酬が将官への登用ですか。
(確かに碌でもないオマケだわ、こりゃ)
ところで、私がNOと言ったら、あの子はどうなりますか?
さてね。また艦政本部に戻されるのじゃないかしら?
次長がお引き受けにはならないんです?
そうしたいのは山々なのだけど、そうできない事情もあるのよ。
〝とあるルート〟がらみで?
ええ。そんなところね。
ふむ……もし引き受けた場合、あの子に対して私が成すべきことはなんでしょう。
艦政本部は秘密裏にこの問題を処理しようとしているわ。
でしょうね。
艦政本部的には、解体できるようなる程度には修復したいと思っているようよ。『〝初期化〟できるようにはならなくていい』とのことだったし。
………。
私としては、駆逐艦として運用できるようになれば、それが最良だと思ってるけれど、あの『電』本人としてはどうかしらね。
ともあれ、さっきあなたが言ったように、あの子を引き受けるためのリスクと引き換えの昇級だけれど、もうひとつ、少将になる理由付けとして、新規に開設する基地の責任者になってもらおうかと思っているのだけど、どうかしら?
……はい?
所属は当鹿屋基地。私が管理している部署に新しい課を作る予定にしているの。
開設の目的は……そうね、回収した艦娘の修復および休養。それから新規艦の建造と育成というところかしら。
とりあえず、表向きは新造艦を作るための整備ということにして、あの『電』のリハビリに専念してもらうという感じでどうかしらね。
はあ……。
言い忘れていたけれど、基地の候補地はN島よ。鹿屋から直線コースを『明石』の巡航速度で丸一日ってとこかしら?
!……。
じっくり考えてちょうだい。返事を急ぐことはないわ。
ちなみに、分かっているでしょうけど、あなたがこの件を断ったら、基地開設の話もその場でなかったことになる。
だから、よく考えて。
これはあなたを効率よく釣るエサではなくて、あなたが抱え込むだろうリスクに対する報酬だから。
……わかりました。
あの、ひとつだけ希望を述べてもよろしいでしょうか?
首肯できるかどうかは分からないけど、どうぞ。
あの子……『電』と直接話をしてみたいのですが。
それくらいだったら……はい、これ、預けておくわね。
ありがとうございます。
……なに?
いえ……まさかすぐに鍵を頂けるとは……。
そう?
はい。
私だって、いつも融通の利かない石頭ってわけじゃないわよ。
いやそれは知ってます。
あなたとあの子の相性もあるでしょう。だからよ。
……なるほど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ヒナセは電がいる部屋に、鍵を開けて入る。
昨日と同じく電はパイプ椅子に腰掛けている。ややうつむいた少女の目がチラリと動いて一瞬だけヒナセを見て、また床に沈む。ヒナセは電の視界に入る位置の床に、ゆっくりと胡座する。
はじめまして、いなづま? 私はヒナセ大佐です。
………。
………。
………。
隠しても仕方ないからはっきり言うね。
私の上司の人にね、君を秘書艦にしたら提督にしてあげるって言われて、ちょっと心が揺れてます。
………。
今はね、まだ提督じゃないんです。
私はアサカ中将の特別幕僚の任に付いているんだけど、実際には幕僚っていう仕事はほとんどしてなくて、ほぼ個人的な秘書。つまりは体のいい従卒でね。まぁ、それをそろそろ脱却したいかなーって思ってたりもします。
………。
だから、君が私の秘書艦になってくれたら、正直私はとても嬉しいのだけど、どうかな?
そしてね、君が秘書艦になってくれたらもうひとつ特典があってね。これは、君にとっても良い話だと思うのだけど。
まだ場所は完全に決まってないのだけど、君と私が赴任する基地を作ってくれるんだって。
実は君の状態のこと、だいたい聞いてるんだけどね、その基地は前線じゃなくて後方基地だから、そこに行ったら、ゆっくりのんびりリハビリができるんじゃないかなぁって、思ってるの。
いろいろ落ち着いたら、新しい艦を建造して育成することになりそうだから、そのときにはお手伝いをしてほしい。
………。
(…………)
いろいろ話をしすぎたね。ゴメンね。
……また君に、会いに来ていいかな?
……(やがてコクンとうなずく)
よかった。
私は一度結婚したんだけど、すぐに旦那が戦死しちゃって、子供がいないの。
もし いたら、君くらいか、君よりちょっと上くらい……いや、もっと上かな。軽巡の子たちくらいかなぁ。……そんなこんなで、君といろいろお話ができたらなって思います。
(ゆっくりと立ち上がって、一歩後ろに下がる)
じゃ、またね。
………。
(扉のところま行く)
……あの……し……司令官さん……。
(ふり返って)………。
(えへら、と笑い)まだ、司令官じゃないから、ヒナセって呼んでくれるかな?
それかヒナコでもいい。フルネームは、ヒナセヒナコって言います。
……えっと……ヒ……ナコさん。
はい、なんでしょう?
………。
………。
………。
うん。また来るよ。
悪いけど、規則だから、鍵かけるね。
……おやすみ、電(デン)
……お……おやすみ、なさい……なのです……。
おやすみ、また明日来るよ。
(パタンと扉を閉める)
………。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おはようございます。
おはよう。
例の件なんですが。
ありがとう。
……まだ何も言ってません。
引き受けてくれるのでしょう?
その手には乗りませんよ。
あらそう。じゃ、この話はなかったということで。
そうは言ってません。
………。
もう一つ条件があります。
却下します。
まだ何も言ってません。
九十九%かなえられないだろうものを、聞く必要はないと思うわ。
それでも1%残ってます。可能性がある限りは、諦めないのが身上でして。
その身上で艦隊を全滅させる、おろかな提督が多いって知っていて?
戦(いくさ)の場合はまた別です。せめて六十五%以上の見込みがない場合は、即撤退ですよ。
なるほど。……で、もう一つの条件は何かしら?
(にこ)ありがとうございます。
お礼はいいから、さっさと言って。時間がもったいないわ。
……はい。
では……規則上許可できかねるのは重々承知していますが、あの『電』としばらく同居させて下さい。そのために、部屋を二つ、貸与願えませんか。
今の状態では無理ね。
は?
あの子を所有艦にすれば、話は別よ。
あー……。
そこまで考えているなら、もう引き受けちゃいなさい。
心を開いてくれるかどうか、まだ分からないのにですか。
大丈夫じゃない?
その根拠はどちらから?
事後報告だけど、あなたが入室してからモニタリングさせてもらったわ。
監視カメラ付きでしたか。
現在、あの子自体が常時観察対象ですもの。
なるほど。
あの子、保護されて以降、自分から人に話しかけたことがないのよ。
はぁ。
必要以上に怯えなかったのは、あなたが女だからかもね。
軍人にしては小柄だし、制帽を被っていなかったのもよかったのかも。
そうなんですか?
ええ、私が直接会った時はすごく怯えたのだけど、制帽を取ったらちょっと落ち着いたのよ。軍人然としすぎてたり白衣を着ている相手に対しては、パニックになって手がつけられなくなることがあるの。
そういう情報は、先に言って下さい。それだったらせめて上着は脱いで入室しましたよ。
(口の端だけでにこりと笑う)
(くそー、試しやがったな)
規則をねじ曲げることは、当案件の場合、ちょっと難しいわね。
基本的に秘密裏にコトを運ばないといけませんしね。
上が思ってるほど、秘密は守られないものだけどね。
まぁ確かに。
あなたが提督になれば、昇格人事としてそれなりに広まるわ。その新提督が所有している駆逐艦が『どこか変』というのは、すぐに噂になるでしょう。
その噂に、あなた自身、耐えられるかしら?
……昔からいろいろと、噂になる種には事欠きませんでしたから、〝変〟がこれ以上上塗りになったところで、痛くも痒くもないですよ。
なるほど。
そこで納得されると、ちょっと腹が立ちます。
そうでしょうね。
………。
まぁ、もう少しよく考えてから、この話の続きをしましょう。
引っ張りますね。
……私もまだ悩んでいるのよ。
次長が?
ええ。
………。
私だって今後のことがあるもの。将来が不利になるようなことは極力排除したいわよ?
……左様で。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おはよう、いなづま(床に座る)
………。
(にこ、と笑う)
……なの、です。
はい、おはよう。
……あの……
はい、なんでしょう?
ど……どうして……
ん?
………。
………(小首をかしげる)
……す……
下に座られるの、イヤ?
………。
………。
………。
落ち着かない……か。
………。
だよねぇ。君らはそういうふうにプログラムされているんだもんね。
………。
でもねぇ、私がイヤなんだよね。
………。
小さい子を見下ろすってのが。
………。
だから、これは許してくんないかな?
………。
……無理か(残念そうに苦笑)
……が……がんばる……の、です。
んにゃー。君が我慢しなくていいよ(立ち上がって) じゃぁ、こうしよう。
(扉から一度出て、すぐにパイプ椅子を持って戻ってきて、電からちょっと離れたところに椅子を開いて置き、座る)
これでどうですか?
………。
うん。
じゃ、これからはこうしよう。
………。
今日はね、午後からお散歩しませんか?
……おさ……
そう、お散歩。
私、今日の午後は、お仕事休みなの。どう?
……あの……め……
命令だったら行ける?
(首を縦にひとつ振る)
そっかー。
できたら命令じゃなくて、君の意思が嬉しいのだけどねぇ。
……じゃ、命令です。午後から私とお散歩してください。
………。
ああ、そんな困惑した顔しないで………えーっと……(ぽむ、と拳で手を叩く)
午後から私のお手伝いをしてくれるかな? これ、命令です。
……お手伝い……しますのです。
はい、ありがとう。
じゃ、また午後に迎えに来るからね。
(椅子から立って、椅子を持って出ていく。扉がパタンと閉まる)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
○午後
おまたせー。じゃ、行こうか。
おいで(手を差し伸べる)
……(おずおずとヒナセの手に触れる)
(二人で部屋から出て行く)
どこ……に、行くの、ですか?
んー? 良いトコ。私にとっては、だけどねぇ(うふふ、と笑う)
(困惑したまま手を引かれるままに、ヒナセについて行く)
------------------------------------------
ここです。私にとって良いトコ。
はわ……。
きれいでしょ?
……はい、なのです。
今からねぇ、草むしりするんです。
ちょっと出張に出てるスキに、雑草が畝のあちこちに生えちゃってねぇ。
手伝ってくれる?
……はわわ……。
はい、軍手。
きちっと指入れてね、いれたら、こうしてギュギュって裾を引っ張って。
そしたら脱げにくくなるから。
………。
そうそう。そんな感じ。……ちょっと失礼。
はわ。
うん、指先までしっかり入ってるね。
じゃ、これ持って。
……??
これね、「くまで」って言います。「手くまで」ね。
たいがいの草は、土から出てるトコをしっかりつまんで引っ張れば抜けちゃうんだけど、たまに頑固なのがいてね……ほら、こんな感じで。同じように引っ張ってみて。
………。
抜けないでしょ。
(ヒナセを見てうなずく)
だからね……代わってくれる? うん。
こんな頑固な草はさ……このあたりにこのくまでの歯をガッと打ち込んで、テコの要領でこうぐいっと……!
抜けま、した……のです。
ね。
こんな感じで、この三つの畝をきれいにしてやりたいのね。
できそう?
で……できる、と……思います、のです。
ですか。
なのです。
じゃ、一緒にやろう。
はい、なのです。
うん。
◇◆◇◆◇◆◇
○別所から
……次長、なにをご覧になってるんです?
(双眼鏡を渡す)
……あれは……ヒナセと……暁型?
ヒナセは提督になったんですか?
近いうちになるかもしれないわね。
それは……ゆゆしき問題ですな。
そう?
ええ、「私にとって」ですが。
買いかぶりではなくて?
いいえ。
少なくとも私の同期は全員そう言いますよ。
キャリアが途切れて、その先がないのに?
ええ、それでも、です。
教官時代の『オニッショー』は伊達じゃないですよ。飛行学生たちだけの渾名ではない。
……ふぅん……そうなの。
私はその渾名、別の士官がそう呼ばれてたことのほうが、馴染みが深いのよ
(ふん、と鼻で小さく笑う)
(薄く笑って肩をすくめる)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おはよう、いなづま。
お……おはよう、ご、ございます、なのです。
はい、おはよう。
昨日はありがとうね、とても助かりました。
………。
お昼休みになったら、また畑に行こう。昨日草取りしたから、様子見にね。
………。
……(苦笑して)命令です。
はい、なのです。
------------------------------------------
ヒナセ大佐、例の件、どうかしら?
もう少し待って頂けますか?
めずらしいわね、あなたが返事を先延ばしにするなんて。
……次長こそ、悩んでらっしゃったのでは?
昨日の夕方まではね。
はい? また唐突に。
そうかしら。
……ともかく、あなた次第と決めたから。
はぁ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いなづま、このあとも私に付き合って下さい。……命令です。
はい……なのです。
午後はね、君と一緒にいろって、私にも命令が下りたんだよね。
………。
アサカ中将から。一度会ったでしょ?
(ゆっくりうなずく)
君のこと聞いたのも、彼女からだったの。 私の直接の上司が、アサカ提督なんだよ。
………。
アサカ中将、怖かった?
(少し躊躇したあと首を小さく横に振る)
はははは……私はねぇ、ときどき怖いんです。
……そう……なのですか?
うん。ものすごいやり手だからね。
あの若さであの階級だし、なにせ私の生殺与奪権は彼女が持ってる。
もちろん、軍人としての……って話だけれど。
今のところは引っ張り上げられて大佐にしてもらってるから、昇級速度としては上々なんだけどね。
でも、畑違いのことをずーっとしてるからねぇ。……辞めたいなぁって思ったりもするんだけど、私もワケありでね、簡単に軍が辞めさせてくんないのよ(にひー、と笑う)
………。
(人差し指を口にやって)私から聞いた話は、オフレコで……ね。
(うなずいて)はい……なのです。
ありがとう、なのです。
(にこ、と微笑んで)なのです。
……さて、ここも終わったし、ちょいでかけますか。
お片付け、手伝って下さい。
はいなのです。
はい、ありがとう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
手をつなごう。おいで。
………。
大丈夫。こうしてたら溺れない。……ほら、波打ち際は、あんなに遠いよ。ここまでは来ない。
今は満潮だからね。
………。
これ以上、海には近づきません。
………。
誓って。
………。
うん、ありがとう。じゃ、向こうまでゆっくり歩こう。見える? 
向こうにちっちゃい建物があるの。
………(うなずく)
そう。目は良いんだね。
あそこにね、おつかいに行くんです。明石が待ってるから。
明石は会ったことがある?
………。
そっかー。じゃぁ、初明石だ。
ちょっとにぎやかだけど、悪い艦《こ》じゃないよ。……明石はたいがいどの子もちょっとにぎやかだけどね。ウチの明石はさらに輪をかけてにぎやかなんだよ。
アサカ中将の秘書艦もよくやってる。ある意味 私と同僚なんだ。
………。
いやぁ、それにしても今日はいい天気だね。
このおつかいが終わったら、間宮さんのところにでも行こうか?
………。
------------------------------------------
明石ー? いるー?
はーい。お待ちしてました、ヒナセ大佐。
例のモノ、できてる?
できてますよー。ちょーっと待って下さいねー。
……相変わらずここはほこりっぽいなあ。
もっと換気すればいいのに……ね。
………。
すみませぇん。お待たせしましたぁ。
………。
(電の様子を見て人差し指を口に当て、明石に)しー。
……っと、これは失礼しました。
で、これです。
ああ、ありがとう。
いつもすまないね。
いえいえー。この程度のモノを作るくらい、朝飯前ですよ。
あ、これ受領書類です。ちょっと項目が多いんですけど
(スッと書類をスライドさせる。書類には『ところで、あれが例の子ですか?』と書いてある)
はいはい。了解(『そう』とその上に書き足す。以下『 』内は同様に)
仕事が早くて助かるよ。
……あ、ここ、間違ってます(『で、どんな感じです?』)
え? ……ああ、悪い悪い。……で、これでいいかな。うんOK。
(『姫提督から聞いたとおりだけど、もうちょっと様子を見てみないことには、分からないかな』)
……じゃ、これ。受領書……と、間宮チケット。あげる。
わお、ありがとうございます! これだからヒナセさんの頼みは最優先で聞いちゃうんですよ。てことで、またのご用命をおまちしておりまっすー。
はいはい。
……あ、いるものあったら、あとでいいから連絡して。
明日にでも届けるよ。
(『詳しい話はその時に』)
りょぉっかーい。
毎度ありがとうございます。
じゃぁね。
おつかれさまでしたー。
電ちゃんも、おつかれさまねー(上機嫌で手を振る)
じゃ、行こうか、電《デン》
おいで。
はい……なのです。
------------------------------------------
そんなこんなで、明石の臨時出張所に行ったり来たりをする日が続きまして。
…で、1週間ほどが過ぎたころ…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日もいい天気だねぇ。
はい、なのです。
今日のお届け物が終わったら、間宮さんのとこに行こうね。
はい、なのです。
電《デン》はパフェとあんみつ、どっちが好きですか?
……えっと……。
他に好きなものがあったら、それでもいいよ。
えっと……えっと……。
あの……ヒ、ヒナコ……さん。
……ん?
あそこ……
はい?(見る)
なにか見えるの?
……わかりませんのです。でも……
……ふむ。
ここで待てる? 見てくるよ。
……あ……の……。
はい。
い……いなづまも……行く……の、です。
大丈夫?
が……がんばる……の、です(歯の根が合っていない)
……わかった。
じゃ、しっかり手を繋いでて。無理だったらそこで待つ。いいね。
………。
じゃ、おんぶして行きます。それでいい?
(震えながらうなずく)
OK、行こう。
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(遠望して)……なにか流れ着いてる。
……ふ……
ん?
……た、助けたい……のです。
……艦か。
(うなずく)
……わかった。走って行く。背中に乗って。
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……これは……(電を背中から降ろして)
待ってて。
………。
引き上げよう……って、重……。
お、お手伝い……しますのです。
ありがとう。
………。
………。
無理か。
……あと30分くらいで潮が満ちてくるな。誰か……
あ……
明石さん……がっ……
……(ニコ、と笑い)だね。
上出来です、デン(思わず頭を撫でる)
……!(身をすくめる)
……と、ゴメン……。
明石のところまで走ります。背中に乗って、早く。
……で、でも……。
大丈夫、君、軽いから。
でも……。
ま……待ってます、ここで。この子、見てますのです。
………。
わかった。じゃ、お願いしますのです。
すぐ、戻ってくるよ。
------------------------------------------
エピローグ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次長。電を秘書艦にしたいんです。
(ヒナセの顔をじっと見ている)
お願いします。
……わかりました。艦政部に申請しましょう。
……は?
なに?
……あの……何度も同じことを言ってましたよね、私。
そうね。
この時点で決を下す理由を訊いてもよろしいでしょうか?
ちょうど、仕事が一段落ついたから……では不満そうね?
……それ、建前ですよね。
いいえ。
………。
正直、あと十日くらいのうちに答えが出なければ、あの電《いなづま》は艦政本部に戻そうと思ってたわ。
……流れ着いた艦《ふね》を、電《デン》が見つけたことと、なにか関わりがありますか?
ない……とは言えないわね。
でもそれが理由じゃないわよ。
電《デン》が私に懐きはじめてるから……ですか?
それもあります。でも見くびらないでちょうだい。そんなことで未経験者に大事な艦を貸与するほど、我が海軍は甘くありません。
それは失礼しました。
……ではなぜです? 何度もデンを引き取りたいと、私、申し上げましたよね?
それよ。
は?
今日、さっき、あなたは、なんて言ったかしら?
えっと……。
すぐに思い出せないなら結構。
無意識に出た言葉なら、それがあなたの本音でしょう。
あの……
士官学校で習ったから憶えているでしょうけど、あらためて言うわね。
艦娘は量産の工業製品ではあるけども、人間に近く作ってある。切れば血も出るし、お腹だって減る。
人間に近いけれども、でも工業製品なの。艦娘たちは提督たちにいろんな形でなつくけれど、それはプログラムされたオリジナルの性格をなぞっているだけなの。
はぁ。
士官学校では『艦娘はあくまでも物として扱え』と教えるけれど、それを守り続けられる提督は少ない。それが容易なら、人間は動物を家族のように思ったり扱ったりしないでしょうね。
………。
ましてや人間と同じ形をし、言葉を介しての意思疎通が可能で、さらに人間に対して従順かつ好意を寄せているとも言える言動をするのが艦娘よ。必要以上の情に流されてはいけない。これだけは心に止めておいてちょうだい。
だからといって、彼女たちをモノ扱いしすぎると、あの電を所有していた提督のように、ひどい扱いをするようになるのだけど。
……難しいのよ、艦娘の運用というのは(視線をそらす)
……次長。
はい?
次長がなかなか許可を下さらなかった理由を理解しました。
そう?
電は保護対象ではありません。
現状、どうしても自分の子供のように接することは多いでしょうが、彼女は私の仕事上の重要なパートナーです。あの子の能力は私に必要だと、先日の一件で痛感しました。
だったらいいわ。すぐに手続きをしましょう。
ありがとうございます。
基地司令就任の話も考えてくれるかしら?
あの電のように〝壊れている〟艦娘は、潜在的に相当数いると艦政本部は予想しているの。それを秘密裏に受け入れて〝修復〟する部署が必要だとも。
お察しの通り、艦政本部長からの直々の依頼なのよ。裏からのね。
……でしょうねぇ。
……まったく、父も面倒くさいことを押しつけてくるわ。
あなたのことといい、今回の件といい。その他といい(ため息)
自分のことについては、すみません。
その分、今まで十分にこき使わせてもらったし、これからもこき使わせてもらうつもりだから、チャラにして頂戴。
私の処遇についてはお委せします。
もうどこにも行ける気がしませんし、行く気もないですし。
そう? 飛行学校の教官に戻る道は残ってそうだけど。
それももう意味のないことなんで。
ふうん。
次長の手から完全に離れるときは、退役するときだと思ってますんで。
残念ねぇ、退役後も縁は続くわよ。今度は義姉妹としてね。
確かに。
でもトミタに戻るならどうですかね?
あら、お兄さまの籍から抜けるの? それもいいわね(ニヤリ、と笑う)
(肩をすくめる)

章間破線

 
エピローグ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おはよう、いなづま。
おはようございます、なのです。
よいしょ……と(床で胡座をかき、電を見上げる)
………。
(にこ、と笑い)………。
………。
………。
……あ……あの……。
『はじめまして、いなづま? 私はヒナセ大佐です』
……はわ……えと………
………。
い……いなづまです。どうか、よろしくおねがいいたします。
良い名前だね。……これから、電《デン》、って呼んでいいですか?
はわわ……。
ダメ?
はわ……。
艦隊運用は士官学校の実技と演習でしか経験したことがない、ペーペーの新米提督なもんで、経験値の高い駆逐艦である君が、初めての秘書艦として最適だと思います。
(手にしていたバインダーを開いて)特Ⅲ型駆逐艦・四番艦『電《いなづま》』 西暦XXXX年十一月十五日就役。……間違ってない?
……はい。
うん。じゃやっぱり君のほうが、海の上はキャリアが長いね。
私はね、実は専科の出なんです。飛行科出身なの。専科途中で事故ってね。飛行機に乗れなくなったのだけど、辞めるわけにもいかなかったもんだから、上から勧められるままに士官学校のほうに転科したんです。
卒業後は飛行科の教官になって、その後アサカ提督の下でデスクワークばかりしてたから、提督業については、さっき言った「ペーペーの新米提督」に嘘いつわりはないんです。
………。
頼りないことこの上ないでしょうが……デン、君は今日、今の今から、私の秘書艦です。
……君の前も、今も、これからも、私に預からせて下さい。
私には……いや、私と私がこれから派遣される新しい基地には、君が必要なの。
………。
……どう、ですか?
……あの……
あの……。
……あの……い、電です。
どうか、よろしくお願いいたします。
……ありがとう。
こちらこそ、よろしくお願いします。
えと……
はい。
で……デン、と呼んで下さって、いい、のです。
ですか?
はい、なのです。
ありがとう、なのです。
なのです。
じゃ、出よう。
はわ。
私の秘書艦だもの、もう、ここにいる必要はないよ。
私のオフィスが用意してあります……と言っても、仮なのだけどね。
なのですか。
そ。
アサカ提督の部屋の横に間借りなの。もともとそこに私のデスクがあってねぇ。
半分倉庫みたいな部屋で狭っくるしいし、散らかってるけど、ここよかすこーしマシだよ。
お、お片付け、お手伝いしますのです。
……あら、やぶ蛇だったかなぁ。
でもま、いろんなものの置き位置をおぼえてもらわないといけないから、今から昼まで仮オフィスの掃除でもしますか。
がんばりますのです。
無理はしなくていいからね。
い……いなづまの、本気を……見るのです。
お。それは頼もしいのです。
なのですか。
なのです
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